愛媛 中島(なかじま)の石丸さん。

留学中、インドネシア人の友人に「インドネシアには20000の島がある。」と聞いて、驚いたのを覚えている。

先日、昨年からお付き合いさせていただいている愛媛の農家さんを数件訪ねた。20000の島。日本にもそれくらいはあるのではないかと気づく。関東生まれの私は、海はそばにあったものの、島といえば、烏帽子岩と江ノ島くらいのもので、本当に井の中の蛙、大海を知らず、だったなあ、と思う。

松山駅から20分ほどローカル線に揺られた後、フェリーに乗って1時間強、中島(なかじま)という島に着く。以外に大きい島だ。島のほとんどが山で、陰になる場所が少なく、一面に陽が当たっている。柑橘類の栽培が盛んたる理由がそこにある。

港から反対側に、石丸さんの家はある。軽トラックに乗って15分ほど、トンネルを抜けて下ると、石丸さんの選果場があった。道すがら、田中さんという方に案内していただいた。弊社 柑橘担当の道法(どうほう)の高校の先輩で、島の人格者だ。「石丸さんは、島でもかなりの特農家よ。あの人のもんなら間違いない。ちょっと値段は高いかもしれないけれど、まずい時は、絶対に出さないし、うまいもん作るよ。新しい品種も積極的に手を出しとる。お酒も強い。あ、そうだ習字もうまいんよ。酔ったらなんでも書くんよ。何でも、っていうのは、おしぼりとかでも、ささっと何か書いてくれる。」

電話では何回も話したことがあるものの、まだお会いしたことのなかった石丸さんに、イメージが膨らんでいく。

茶色の風情のある倉庫の扉を開くと、石丸さんは選果をしているところだった。大柄でがっしりした体躯なのに、温和で穏やかな笑顔をされる方だった。見かけない柑橘がたくさんコンテナに入っている。「これはまだ名前がない。」「これは『かがやき』。」いろいろ見させてもらった後、「これは何ですか?」と聞くと、「それか。それは超高級品。」と石丸さんが言うと笑いが起こった。実は伊予柑の2Sサイズのもので、市場に出せば二束三文で取引されてしまうもの。石丸さんがそれを皮肉って言ったのだった。

はるかとカラマンダリンの圃場が見たい!と選果で忙しいのに、連れて行ってもらった。靴を履き替えたほうがよいと、ご子息に促され、スパイク付の地下足袋をお借りした。車で山を上がっていき、それから歩いてあがった。清見の森を抜け、かがやきの森も抜け、みかんの谷を超えると、はるかの山があった。二方向を山でシャットダウンされているので、風の強い島にあっても心地よい風が吹く程度。海も見える。石丸さんがその場でポキッとはるかを収穫してくれた。やっぱり美味しい。売り場で食べたものも美味しいが、実がぷりぷりしていて、さらに美味しい。さわやかな風味があり、甘さが強い。糖度計で測ると18度もあった。おおよそ15度はある品種だが、際立っていた。「酸味がなくて美味しいですね」というと、「酸味はあるんよ。でもおとなしい酸味なん。」と石丸さん。

実は、黄色の柑橘は売れない、というテーゼが、青果業界にはあった。というのも、黄色の柑橘はレモンを思わせ、酸味が強いと、消費者の方に思われてしまうからだ。石丸さんは、長年それをチャンスと考えていた。「黄色だから売れないのではなく、黄色の柑橘で美味しいのがなかったんよ。だから黄色の柑橘でも美味しい品種がが出たら、絶対チャンスだと思ってた。」そうしてつくりはじめたのが、春香(はるか)と輝(かがやき)。はるかは、日向夏の偶発実生で、かがやきは清見の亜種。どちらも糖度が高く、風味がよい。4月に入ると出荷が始まる「カラマンダリン」の畑も見た後、車の中でふと思った。 「そういえば、石丸さんの出荷されるダンボールに『輝』って書いてませんでしたっけ?」「書いとるよ。」「もしかして、あれは石丸さんが書いたものですか?」「そうそう、はは。」 なるほど、さすがに達筆だ。

真っ赤に色づき始めた空と海を見ながら、「島は良いよ。お金を稼ごうと思わなければ、ここの生活は良いよ。」と目を細めた石丸さん。愛媛弁のやわらかな響きと、男前で、柔和な笑顔が、強く印象に残った農家さんでした。

isimaru cut.jpg 石丸さんとカラマンダリン。

【りょくけん松屋銀座店 石丸さんの商品取り扱い予定】 ■はるか 3月14日~店頭販売。 ■カラマンダリン 4月中旬予定 ■かがやき 3月末予定

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