雑柑 考察

「雑柑(ざっかん)」という言葉がある。みかんが終了した後に出る柑橘類、主に中晩柑類の総称だ。みかんやオレンジなどを掛け合わせ=交雑させて生まれたものが多いので、そう呼ばれるのかもしれない。

いずれにせよ、雑な柑橘とは、いささか失礼な気がする。

不知火(デコポン)
 もっとも成功をおさめているのは、デコポンこと不知火(しらぬひ)だろう。ただ、あまりにも人気が出たためか、粗製乱造、生産者や畑による品質のばらつきが激しい。代わって、今人気なのはせとかや甘平(かんぺい)。酸味が少なく、極甘でジュース分が多く、手で皮がむける。栽培がやや難しく、生産者が爆発的に増えないので、品質も安定している。

甘平(かんぺい)
 せとかや不知火に共通するのは、本来は酸味が強い、ということだ。収穫したては、酸っぱくて、とても食べられない。収穫後1ヶ月くらいして、酸味が抜けると、もともと高い糖度が目立つようになり、美味しくなる。片親が「清見(きよみ)」という柑橘であることも共通点。清見は、みかんとオレンジの掛け合わせで、「清見オレンジ」と呼ばれる。味や香りが良く、ジューシー。食味も、ちょうど、みかんとオレンジの間だ。ただ「清見タンゴール」という名称が正しい。みかん=タンジェリンtangerineとオレンジ=orangeで、そのアルファベットのtang-とor-を合わせてtangorタンゴールという。ちなみに、グレープフルーツなどの文旦類とみかんの掛け合わせはタンジェロという。文旦は、pumello(ポメロ)と言い、タンゴールと同じく、tang-と-elloが合わさった言葉だ。


日向夏
 そのいずれのグループにも属さない独自品種が、日本にはいくつか存在する。
たとえば日向夏。りんごの皮をむくように黄色い皮を包丁でむき、白いワタも一緒に食べる黄色い柑橘。日本では、黄色の柑橘は売れない、というジンクスがあり、それを打破しようと、打ち出された最初の柑橘ではないかと思う。
何年か前にその白いワタに、ヘスペリジンという成分が発見され、がんの発生を抑える、と言われた。本来、晩生の柑橘で5月が旬なのだが、早生系が相次いで生まれて、本来の味があまり知られていないのが残念なところ。

黄金柑
もうひとつは、黄金柑。鹿児島で発見され、黄みかんや、ゴールデンオレンジと呼ばれてほそぼそと食べられてきた。神奈川に移って種が少なく枝変わりしたのが湘南ゴールドで、こちらは高値で取引されている。2月に収穫してしまうことが多いのだが、4月まで樹に置いておくことで、食味が数段上がる。ただ、外観のツヤや光沢が少し鈍くなり、傷も増えるので、商品価値が減ってしまう。りょくけんでは、もちろん4月まで樹においておき、熟度をあげたものを提供している。今年は、糖度は高いものの、酸味の抜けがいまいちで、ややすっぱめに仕上がっている。

はるか
 酸味が苦手な方に絶対おすすめなのが、はるか。粒々した食感が美味しく、非常に酸味が少なくて、甘さを強く感じる。前述した日向夏の偶発実生で、片方の親が良く分かっていないが、甘夏ではないかと言われている。提供できる期間が長く、2月から4月いっぱい、提供できる。

 黄色の柑橘といえば、山吹色が美しい「かがやき」も捨てがたい。日本初のダンゴール、清見の枝変わりで、とてもきれいな色合いで、良く冷やして、くし形に切って食べると、ゼリーのような食感で、ジューシーで美味しい。

文旦
 最近は、文旦類=ポメロの仲間も美味しい。文旦の代表品種はグレープフルーツ。ナリンギンの苦みのファンは多い。ただ、日本の文旦類は、苦みがほとんどなく、土佐文旦も美味しいし、大橘も美味しかった。一昨年から本格化した、国産のグレープフルーツもあるが、私の一押しは水晶文旦。きっと、食べたことのない方が多いはずだ。

 手で皮がむける、ということでは、5月下旬のカラマンダリンもオススメだ。みかんとキングオレンジの掛け合わせで、当初、日本に導入を試みた際には、酸味が強すぎて見送られたという。数か月経った後、ヒヨドリが樹に枚挙しているのを見て、改めて食味を見たところ、じょうのうが薄く、きわめて糖度が高くて酸味も抜け、高食味だったため、採用に至った。思えば、愛媛の石丸さんとも、この、カラマンダリンがきっかけだった。たくさんあった柑橘類も、5月の後半に入ると種類がごくごく限られるようになる。そのときの有力商品としてカラを探していたのだ。当時の上司で、柑橘類の指導においては、日本でも5本の指に入る人で、コネクションも多かった。すぐに愛媛の中島まで行って、話を聞きに行ったものである。

 柑橘の締めを飾るのが、河内晩柑だろう。ジューシー柑あるいは美生(みしょう)柑とも言う。晩柑の名の通り、遅くに=6月くらいに出荷が始まる文旦類の柑橘だ。嫌な苦みが無く、とてもジュース分が多い。6月から7月いっぱいまで扱える時期の長さも特徴だ。

 それが終わると、ハウスのみかんへと続き、極早生みかん、早生みかん、と続いていく。

 時折々の柑橘。そのお味をぜひ楽しんでください。

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