約束の、みかん。

ずっとお会いしたいと思っていた農家さんだった。

「一言でいえば、武士のよう。」
「まじめでのう。雨の日も風の日も畑におるよ。もう少し手抜いてもええんじゃ言うてもやりよる。」

秀島さんを知る人に聞くと、いつもそんな答えが返ってきた。

高速のインターを降りると「オレンジロード」なるバイパスがあり、駆け抜けること20分。
左側に秀島家代々のお屋敷が見えてくる。周囲にも畑が広がり、よく手入れされているのが遠目でも良く分かる。

電話すると、「上野※の収穫で忙しいから畑まで来てくれるか!?」とのこと。周囲の畑とは違う場所で、どうやら収穫中らしい。山間の道を抜けて道を上がっていくと、玄界灘に浮かぶ島原半島が見える絶景に着く。日当たり抜群で、白マルチ※が敷かれ、余計な水分が入らないように工夫されている。

「秀島さ~ん」

と何度か呼ぶと、ほっかむりを被った、細身の、締まった体躯の男性が、たわわに実ったみかんの枝をかいくぐって、目の前に現れた。

「この忙しい時に!」と第一声。
「でもぜひお会いしたくて。」

りょくけんの始まりは、みかんだった。

だから必ず会社にはみかんのエキスパートがいて、自分はその方たちにまかせっきりだった。秀島さんのように20数年お付き合いのある農家でも、自分は初めて会った。

「良い感じになってますね。」
「いやあダメだ。やりたいことが全くできなかった。」

「そうなんですか!?」
「あれもこれも、もっと手をかけたかったけんが、人手が足りなくてできんかった。」

昨年は雨が多い年だった。

「これだけ雨が降っても、なんとか回復させようと頑張ったが、手が回らん。剪定も、摘果も全部自分ひとりだった」

これだけの面積を、一人。すごい。

「来年見てて。東南アジアまで行って、研修生を決めてきたけん。彼らは良いぞ~。やる気に満ち溢れている。彼らに全部教えるつもりだ。」

農業は労働集約的だ。人手が必要。でも人口減少が続く日本では、なかなか人が集まらない。

「来年を見ててくれ。」
「?」
「あっと言わせるようなみかんを作るから。」

やりたいことを全部やって驚くような品質のみかんを作る、と秀島さんは約束してくださった。

―あれから一年。

いよいよ始まった秀島さんのみかん。コクがあって、甘さも十分。とろけるように薄い内袋で、抜群に美味しい。

約束の、みかん。開始です。


 ※上野 …みかんの品種名。酸抜けが良く早くから収穫できるみかん品種群を、総じて極早生と呼び、その次に出てくる品種群を早生みかんと言う。上野は、ちょうどその中間の時期に出るみかんで、基本的には極早生に分類されるが、早生品種と捉えることも少なくない。
 ※白マルチ …農業資材のひとつで、畑に水が入らないように覆うビニールシートのこと。光を反射したい場合には白、地温をあげたい場合には黒のものが使われる。白マルチは前者のこと。

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