「専門は西洋梨なんです。」

グラニースミス。元祖青りんご。
成田さんの事務所 兼 直売所に戻り、しばらくお母様と叔母様と立ち話。
 
「いやあ楽しいですね。これだけの品種があると、ホント、楽しいです。」
「もうねえ、息子が勝手にいろいろ作るから、ついていくのに必死ですよ。」
 
「ところでどちら様?」と叔母様。
 
「りょくけんさん!りょくけんの大森さん!」
 
成田さんが、ちょうどいらして、注釈してくださった。
 
「あらやだ!大森さんってこんなに若い方なの!」と叔母様。
 
「ね~。昨年はお子さんも連れてきてくださって。その時も若いパパだとは思っていたけれど。」とお母様。
 
叔母様とは初対面だった。
 
直売所を見渡していたら、目につくものがあった。
 
コミス。正式名はドワイエンヌ デュ コミス。
「これ、ドワイエンヌ デュ コミスじゃないですか。」
 
「はい。」と成田さん。
 
ドワイエンヌ デュ コミスはフランスの品種で、19世紀に生まれた古い伝統の品種。
多くのくだものがそうであるように、日本の温暖湿潤な気候は、コミスに向かない。
 
一般的に栽培が難しいとされ、公式的なデータを調べたところ、日本全国で4ヘクタールしか作られていないのだという。
 
「コミスは、栽培が難しいって聞きますけれど!」
「あ、言いますよね。でも知っているか知らないかだけで、実はそんなに難しくないです。」
「ほお。」
「コミスは4年枝につければよいだけです。」
 
成長スピードが遅く、側枝の4年目の芽を残し果実を育てれば、順調に育つ。
それを知らないと、ほかの西洋梨は3年目の枝で生るので、諦めてしまったり、剪定の際、間違えて切ってしまうのだという。
 
「へえ~。なんで成田さんはそのことをご存じなんですか。」
「僕、実は、専門が西洋梨なんです。」
 
成田さんは、農業大学校を出ている。
実家はりんご農家だったが、専門医勉強したのは、西洋梨だった。
その後、就農する前に地元の品種改良の試験場にも勤めた。
 
「試験場でいろいろな品種も食べましたが、コミスが一番美味しいな、と。」
 
「うん、おいしい…!」
 
後ろで少し声が聞こえた。
叔母様がコミスを試食に切っていて、持ってきてくださった。
 
ラフランスは果肉が多少ざらつくが、コミスはざらつきがなく、ほんのり酸味もあって、美味しい。
 
「成田さん、お願いがあるんですが。。。」
 
先ほどからずっと喉から出かかっていたことを、思い切って言うことにした。
 
「コミスと、アルプス乙女、そして蜜入り紅玉を銀座店に送っていただけないですか。」
「良いですよ。」
「できれば、今日出しで。」
「良いですよ。コミスとアルプス乙女は在庫してるんで。紅玉だけ、今からとりますね。」
 
翌日は土曜日。
天気は少し悪そうだが、銀座店は大勢の一元のお客様でもにぎわう。
私も店頭に立つ日。
 
アルプス乙女は、小さいりんごだが、食味もよく、外観のかわいさから、お客様の目を引く。
おそらく外国人観光客の方も買っていかれるだろう。
 
蜜入り紅玉は、断面を切ってきちんと見せて、日持ちをしないことも伝えて、その貴重さで、絶対に評価される。
 
コミスも同様。
 
商品担当冥利に尽きる、というものだ。
 
良い仕事したなあ~とりんご園がまたまたきれいだったので、とてもうれしい気持ちで、成田さんの畑を後にした。

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